私なんかこの世にいても
たいしたスペースはとっていない。
そういう風にいつだって思っていた。
人間はいつ消えてもみんなやがて消えていく。
それは本当だ。

でも私がいなくなった光景を
その中で暮らしていく
愛している人を想像すると涙が出た。

私の形をくりぬいただけの世の中なのに
どうしてだかうんとさびしく見える。
たとえ短い間でも
やがて登場人物はいずれにしても
時の彼方へみんな消え去ってしまうとしても
そのスペースがとても大事なものみたいに
輝いて見える。

まるで木々や太陽の光や道で会う猫みたいに
愛おしく見える。

そのことに私は愕然として
何回でも空を見上げる。
体があって、ここにいて、空を見ている私。
私のいる空間。

遠くに光る夕焼けみたいに
きれいな、私の1回しかない
この体に宿っている命のことを。

「おかあさーん!」より(吉本ばなな)

今日の誕生花:えびね蘭
花言葉:優雅

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